August,2000 (2)

今月の御題目

煌めきのシャンパーニュ(後編)
シャンパンの種類 etc.

 「ハレ」のワイン、シャンパーニュ。前編では、その製法や産地の説明をしてみました。今回は他の地方とはちょっと違うシャンパンの種類や重要なヴィンテージについて。 Let's try Champagne !!


シャンパンの種類

 シャンパンは他の地方と違い、メーカー(製造業者)の名前が大きく書いてありますよね。また、収穫年も表記されていない事が多い。これは、異なる畑、異なる年のぶどうをブレンドしてつくるためなのです。一般的にはそういった「ノン・ヴィンテージ」(年号のないもの、以下NV)が各メーカーの主力商品となっていて、この地方の生産量の約8割をしめています。
(写真はヴーヴ・クリコ・ポンサルダンの顔でもあるNVブリュット。通称イエローラベル。)

 またこういったNVの他、様々なタイプが生産されています。シャンパーニュに関する用語を説明しておきます。


・プレスティージュ (Prestige)
各社を代表する高級品。豪華なビンに詰められ、高価なもの。通常ヴィンテージが付く。詳細は後述
・ヴィンテージ (Vintage)
作柄が特に良かった年の原酒だけでつくったもの。ラベルにヴィンテージが表記される。法定の最低熟成期間は3年。(NVは15ヶ月)
・ロゼ (Rose)
シャンパーニュのロゼは他の地方と違い、白ワインと赤ワインをブレンドする事が許されている。大体が高価なもの。前編で詳しく説明しています
・ブラン・ド・ブラン (Blanc de Blancs)
白ブドウのシャルドネ種だけでつくられたもの。
・ブラン・ド・ノワール (Blanc de Noir)
黒ブドウ(ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ)だけでつくられたもの。

 またこの地方における発泡性ワインの誕生は17世紀末であり、それ以前は赤ワインの産地としてブルゴーニュ地方と争ったらしい。その名残か、今でも非発泡のスティルワインも生産されており、これを「Coteaux Champenois : コトー・シャンプノワ」と言います。赤、白、ロゼの生産が認められ、ブジー村やアイ村の赤ワインが有名です。
 そしてピノ・ノワール100%で造られるロゼのスティルワイン「Rose des Riceys : ロゼ・デ・リセー」もAOCとして認められています。


小さな文字に隠される大きな意味
 これは、ルイ・ロデレール社のプレスティージュ「クリスタル」のエチケット。通常のワインと同じように、生産者、容量、アルコール度数等が記されているのが分かります。
 ただここで注意して欲しいのが右の部分。下の文字列「NM」という小さな表記に注目して下さい。この部分に意外にも重要なインフォメーションが隠されています。この生産者のコード番号に含まれる文字には次のような意味があるので、そのシャンパンを造っている生産者のタイプが判別出来ます。 

NM : Negociant-Manipulant ネゴシアン・マニピュラン
シャンパーニュを製造する会社(又は個人)で必要とするブドウの一部または全部を他から購入する。大手のハウスやネゴシアン。ほとんどがこれに属します。
RM : Recoltant-Manipulant レコルタン・マニピュラン
グローワー(ブドウ栽培農家)で、かつ自力でワインを造るもの。
CM : Cooperative de Manipulation コーペラティヴ・ド・マニピュラシオン
協同組合名で生産販売するもの。
MA : Marque d'Acheteur マルク・ダシュトゥール
BOB(バイヤーズ・オウン・ブランド)。プライヴェート・ブランドのことで、ふつう専用のラベルを用いる。
RC : Recoltant Cooperateur レコルタン・コーペラトゥール
協同組合製のワインを売るグローワー。
SR : Societe de Recoltant ソシェテ・ド・レコルタン
同族のグローワーによって構成される会社の製造したもの。

 シャンパーニュというと、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、マム、ポメリー等、大手のハウスが思い浮かぶわけですが、実際には原料のブドウの90%は、15000人に及ぶ栽培農家(平均所有面積たったの2ha)が供給しています。
 この冷涼な地方において、毎年の作柄が保証されないため、異なる年のぶどうをブレンドしてつくる「ノン・ヴィンテージ」が重視され、ブレンドの妙により各メーカーのワインの品質を保っています。そのためには、多大なストックと資産が必要となるため、大メーカーが幅を効かせ、零細な栽培農家にとっては、シャンパンを生産、販売するということが難しくなっています。

 しかしながら、栽培農家の中にも自力でシャンパンを造るものもいて、これが上記の「RM : レコルタン・マニピュラン」にあたります。ブルゴーニュのドメーヌのような存在であるこれらの生産者は、大手のメーカー製に比べると、年ごとのバラツキは大きいとも言えますが「ポール・バラ」(写真右上)や「アラン・ロベール」等のように卓越した手腕により高い評価を受けている生産者もいます。




プレスティージュ

 シャンパーニュ地方には「グランド・マルク・ド・ヴァン・ド・シャンパーニュ」という名門の団体があります。200社以上の数あるメーカーの中でも、有力な20数社だけが加盟しており、これら各社は「プレスティージュ」高級なシャンパーニュを生産してきました。主に来賓用に生産され、数も少なかったことから市場にも出てこなかったものですが、近年の極上シャンパンへの需要から、各メーカーが力を入れ生産量も増えたため、日本にも多数の銘柄が輸入されるようになりました。

 その先駆けとも言えるのが、ご存知「ドン・ペリニョン」(通称ドンペリ)。「泡を瓶に閉じ込めた大恩人」注1の名をつけたこのプレスティージュは、1937年に発売され大成功をおさめ、高級シャンパンの代名詞にもなっています注2
 各メーカーの代表的な銘柄として


Dom Perignon : Moet et Chandon
(ドン・ペリニョン:モエ・エ・シャンドン社)
La Grande Dame : Veuve Clicquot Ponsardin
(ラ・グランダム:ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン社)
Crystal : Louis Roederer
(クリスタル:ルイ・ロデレール社)
Comtes de Champagne : Taittinger
(コント・ド・シャンパーニュ:テタンジェ社)
Louise : Pommery
(ルイーズ:ポメリー社)
Belle Epoque : Perrier-Jouet
(ベル・エポック:ペリエ・ジュエ社)


 また畑名の付くことないこの地方で、ラベルに畑名を記すことを許されるたった二つのシャンパン
Clos du Mesnil : Krug (クロ・デュ・メニル:クリュッグ社)
Clos des Goisses : Philipponnat (クロ・デ・ゴワセ:フィリッポナ社)

フィロキセラ以前からのブドウ古樹、ピノ・ノワール100%で造る
Vieilles Vignes Francaises : Bollinger (ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ:ボランジェ社)
等があります。
 そして、小規模生産者ながらグラン・マルクに加盟を認められている「サロン」についてはこちらをご覧下さい。

注1)ドン・ぺリニョン師がシャンパーニュを発泡性にしたというのは、一般的には間違いとされています。(モエ・エ・シャンドン社が当初、広告でそう謳ったためにこうした誤解が生まれたのですが、同社は現在ではこの件に関してノー・コメント)
注2)1937年にキュヴェ・ドン・ぺリニョンを発売したのはモエ・エ・シャンドン社ではなく、メルシエ社で、この会社を1970年に買収したのがモエ・エ・シャンドン社でした。同社はメルシエ買収後「ドン・ペリニヨン」のみを同社ブランドに移行させたのち、メルシエをスーパーマーケット用の安ブランドにしてしまいます。


シャンパーニュの伝統、ノン・ヴィンテージ

 少しワインにうるさくなってくると、ヴィンテージ・シャンパーニュやプレスティージュが気になってきます。当然、長期熟成されたヴィンテージ・シャンパーニュは素晴らしく魅力的です。年に数度、お祝いの席には用意したいものですね。

 ただここにヴィンテージ・シャンパーニュについての興味深い法律があります。
ネゴシアンまたは出荷する栽培家が購入または収穫した該当年のワイン総量の80%を超えてはならない

 この法律、意外にも重要な意味が含まれているように思います。どうしてシャンパンを他の地方のごとく、すべて年号付きにしてはいけないのでしょう?
 上にも記したように、元来、ブドウ栽培の北限にあたるこの冷涼な地方においては、毎年の作柄が保証されないため、異なる年のぶどうをブレンドしてつくる「ノン・ヴィンテージ(NV)」が重視されています。天候の良くなかった年のものだけで造ったのでは、シャンパンの評判が落ちてしまう。よって各メーカーは、数年分の多量のストック(レゼルヴ)を持っていて、数年にわたるワインをブレンドしながらバランスをとり、その品質を保っています。
 そのためこの地方では「ブレンド」が基本でありその「歴史」を支えていると思われます。ブレンドの妙がこの地方の醍醐味でもあるというのは、ブドウ品種のみならず、ヴィンテージ間のブレンドという意味が多大に含まれています。

 ジャンシス・ロビンソン女史も著書の中でこう触れられています。
シャンパーニュ地方には、ヴィンテージ・シャンパーニュに対する異論もある。その考えによれば、ヴィンテージ・シャンパーニュはあまり感心しない流儀、あるいは野心的なスタイルであって、最良のブドウだけをかすめとるから、ノン・ヴィンテージという"本来の"シャンパーニュの品質を低下させてしまうことになる。

 やはり多量のヴィンテージ・シャンパーニュを造るということは、「良いワインをかすめとる」ことにもなるのでしょう。品質を保つ意味でのNVの品質に影響を及ぼしかねないというのも納得できます。
 そういった事を考えると、この「80%」という数字、実際にはヴィンテージ・シャンパンが8割を占めるメーカーはほとんど無いと思われますが、あまり意味の無い、甘い法規なのでは?と思います。もっと数字を抑えるべきではと?

 「ハレ」のワイン、シャンパーニュ。やはり「高級」なイメージが求められる席で用意される事が多いワイン。消費者需要に合わせた生産者の商品構成は当然でもあり、高級なプレスティージュも素晴らしい品質だと思います。ただ、ワイン好きなら、ノン・ヴィンテージにもう少し目を向けてもいいのでは。出荷量の最も多いNVは各「ハウスの顔」。そこにはシャンパーニュの歴史と伝統が詰まっているように思います。

前編ではシャンパンの製法他について説明しています。

今月の味わいのあるワイン」では、
NVシャンパーニュ&スパークリングを特集しています。

参考文献
シャンパン物語
シャンパンの教え
世界一ブリリアントなワイン講座
ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート 教本

このページを作るにあたりアドバイスを頂いた
青木冨美子様そして堀賢一様に感謝いたします。

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