November,1999

今月の御題目

古くて新しいイタリア
 情熱の国イタリア。古くより「衣食住」に関する文化の基礎を築き、一歩先を行くその独自性には、いつの世も世界が注目。
 ワインにおいても、何千年にもわたる歴史を持ち、今なお一大生産国として君臨するイタリア。今回はそんなイタリアワインについて。

エノトリーア・テルス(ワインの大地)

 イタリアは生産量で、フランスと毎年世界第一位、二位を争うワイン大国。その約80%は、国内で消費されるにもかかわらず、輸出量でも一位、輸出先は80ヶ国にもなります。
 古代ローマにワイン造りの知識をもたらしたのはキリシャ人で、彼らがイタリア南部やシチリア島に到達した時、あまりにもその気象条件や土壌がワイン造りに適していることに感動し、「エノトリーア・テルス(ワインの大地)」と呼んだと言います。
 その証拠に今でもイタリア国内20州すべてでワインが造られ、他の国には見られない程多くの(1000種類以上といわれる)ブドウ品種が栽培され、多種多様なワインが産出されます。
 南北約1200km、北緯37〜47度の間に位置する長靴の形をしたワインの大地がイタリア。

イタリアワインの格付け

 イタリアにも、フランスのAOC法に相当する法律があります。

DOCG 統制保証原産地呼称ワイン
品種、産地、収穫量、混醸率など細かく規定
98年末現在、21銘柄
(フランスのAOCに相当)
DOC 統制原産地呼称ワイン
DOCGと同じように規定があるがやや緩い
98年末現在、281銘柄
(DOCG,DOC合わせて全生産量の約15%)
VdTIGT 地理的表示付きワイン
92年の改訂で新たに加わった格付け
98年末現在、117地区
(VdT,VdTIGTまでがテーブルワインの分類)
VdT ヴィーノ・ダ・ターヴォラ
最下級とはいえ、VdTの中には上級ワインに匹敵するような銘柄がある。要チェック。
(フランスのヴァン・ドゥ・ターブルに相当)

DOCG(Denominazione di origine Controllatta e Garantita)
 とにもかくにもDOCG。イタリアのワイン法において最も上位に位置する21銘柄のワイン。この名前を覚えておくと、ワイン選びが楽になると思います。ただしイタリアのワイン法は、毎年改定され、98年もこのDOCGに3銘柄(19、20、21)が昇格しています。

No
認定年

ワイン名

産出州
主な使用品種
1
81年
Barolo
バローロ
ピエモンテ州
ネッビオーロ
2
81年
Barbaresco
バルバレスコ
ピエモンテ州
ネッビオーロ
3
89年
Gattinara
ガッティナーラ
ピエモンテ州
スパンナ
4
87年
Albana di Romagna
アルバーナ・ディ・ロマーニャ
エミリア・ロマーニャ州
アルバーニャ
5
80年
Brunello di Montalcino
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
トスカーナ州
ブルネッロ
6
89年
Carmignano Rosso
カルミニャーノ・ロッソ
トスカーナ州
サンジョヴェーゼ
7
84年
Chianti
キアンティ
トスカーナ州
サンジョヴェーゼ
8
81年
Vino Nobile di Montepulciano
ヴィノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ
トスカーナ州
プルニョーロ・ジェンティーレ
9
89年
Torgiano Rosso Riserva
トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァ
ウンブリア州
サンジョヴェーゼ
10
92年
Montefalco Sagrantino
モンテファルコ・サグランティーノ
ウンブリア州
サグランティーノ
11
92年
Taurasi
タウラージ
カンパーニア州
アリアーニコ
12
93年
Asti
アスティ
ピエモンテ州
モスカート・ビアンコ
13
93年
Vernaccia di San Gimignano
ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ
トスカーナ州
ヴェルナッチャ
14
95年
Franciacorta
フランチャコルタ 
ロンバルディーア州
シャルドネ、ピノ・ビアンコ他
15
96年
Brachetto d'Acqui
ブラケット・ダックイ
ピエモンテ州
ブラケット
16
96年
Vermentino di Gallura
ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ
サルディーニャ州
ヴェルメンティーノ
17
96年
Chianti Classico
キアンティ・クラッシコ
トスカーナ州
サンジョヴェーゼ
18
97年
Ghemme
ゲンメ
ピエモンテ州
スパンナ
19
98年
Valtellina Superiore
ヴァルッテリーナ・スペリオーレ
ロンバルディーア州
キアヴェンナスカ
20
98年
Gavi
ガヴィ
ピエモンテ州
コルテーゼ
21
98年
Recioto di Soave
レチョート・ディ・ソアーヴェ
ヴェネト州
ガルガーネガ

難解で数の多いブドウ品種
 イタリアのワインをやや難解なものにしているのが、そのブドウ品種。1000種に近いブドウが存在し、実際にワインとなる主な品種だけでも約80種にものぼると言われます。
 またその呼び名がややこしい。ブドウの品種分類においては同じ品種でもその土地により呼び名の違うことがよくあります。DOCGの中にもそういったものがありますので、まとめると、

ブルネッロ = プルニョーロ・ジェンティーレ = サンジョヴェーゼ・グロッソ

ネッビオーロ = スパンナ = キアヴェンナスカ
 例えば「サンジョヴェーゼ・グロッソ」は、サンジョヴェーゼより少し実が大きく、長熟用に品種改良したタイプで、「サンジョヴェーゼ・グロッソ」のことを、ブルネッロの村では「ブルネッロ」、モンテプルチアーノの村では「プルニョーロ・ジェンティーレ」と呼びます。
 他にも、バローロやバルバレスコで有名な「ネッビオーロ」は、ゲンメやガッティナーラでは「スパンナ」、ヴァルッテリーナになると「キアヴェンナスカ」と呼ばれ、これらは同一品種です。
 イタリア含めフランス他でも、ヨーロッパの国々の人達は、自分の村や土地での名称は、気安く変えないそうで、よって、同じ品種でもぞれぞれの土地で呼び方が今でも違うということです。

スーパー・VdT
 イタリアのワイン法は、様々なタイプのワインが存在する同国のワインを統制し、認識させる上で大きな役割を果たしていますが、その反面、この法律はあくまで生産地やブドウ畑の「原産地」を保護することを重視したため、ワインの品質向上の面で特に高品質と言えないワインがあるのも事実です。
 そんな生産者の不満(?)の結果として生まれてきたのが、今話題の「スーパー・VdT(ヴィーノ・ダ・ターヴォラ)」と呼ばれるワイン達。お上の法に縛られない高品質なヴィーノ・ダ・ターヴォラを指して、こう総称しています。主にトスカーナのキャンティ地区で生産されているものが多く、それらは「スーパー・タスカン」とも呼ばれています。


左から、スーパー・タスカンの元祖、サッシカイア。アンティノリ社の両雄、ティニャネッロソライア。弟が造るオルネライア。メルロー100%のラッパリータ。ラベルが印象的なサンジョヴェーゼ100%のペレゴル・トルテ。そしてランポーラのサンマルコ

ガンベロ・ロッソ
 ブドウ品種も様々で、DOC法による格付けも、フランスの格付けに比べ、その品質を表すことの少ないイタリアワイン。さらにスーパー・VdTなるワインの登場により、多様性を増しています。「イタリアワインってどれが美味しいの?」と思った時に、その資料の少なさも問題になります。
 R.パーカーやH.ジョンソンといった欧米の評論家も、イタリアに関して、やや情報に乏しい感は否めません。
 そんな時、役に立つのがイタリア「ガンベロ・ロッソ(Gambero Rosso)」社のガイドブック。ワインそしてレストランに関する評価を毎年行っており、それぞれのガイドとして発刊。ワインガイド「vini d'Italia」にて、ワインに関する評価はグラスの数で表され、最高の評価(90点〜100点)はスリー・グラス(トレ・ビッキエリ:Tre Bicchieri)を与え、イタリアワインファンの指標となっているようです。

イタリアワインの品質

 数々の雑誌を賑わすイタリアワイン。何故、今イタリアなのでしょう。
 イタリアは世界最大のワイン産出国にして、最大量を誇る自己消費国でもあります。DOC法の盲点があったにせよ、各生産者は自国の消費に重点を置き、世界のマーケットを目標にしていなかった時代が長く続いたことも、フランスに比べ、その品質に向上が見られなかったことも確かなのでしょう。
 さらにバローロやブルネッロ・ディ・モンタルチーノといった高品質のワインがありながら、そのワイン文化の体系が、あまりにもフランスを中心とする世界の流れ(新世界のワインのように)と違っていた事、その特異性が消費者に受け入れられにくい要素だったのかもしれません。

 しかしながら、現時点では、それらの生産者もブドウの栽培や醸造技術の改革に取り組み、高品質のワイン造り、そしてカベルネ・ソーヴィニオンやシャルドネといった、世界のマーケットに目を向けた品種の栽培も進んでいるようです。
 ただ、個人的には、「スーパー・タスカン」なるワインが注目を浴びようと、伝統的なイタリアの銘柄(キャンティ、バローロ、ブルネッロ等)も大切に見守っていきたい。そうする事により、イタリアの魅力はもっと広がるのではないでしょうか。

 南北に広がる長靴の形をしたワインの大地。古くて新しい、最も可能性を秘めた国。そして知れば知るほど魅力的な国なのかもしれません。

「今月の味わいのあるワイン」
イタリアワイン特集です。

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