1960-70年代アメリカにおけるキリスト教の悪魔祓い(エクソシズム)の事
例集。
原著は、
Malachi Martin, "Hostage to the Devil", Reader's Digest Press, 1976.
著者はダブリン生まれ(トリニティ・カレッジ出身なので、ベケットの後輩である)。数年間、バチカンで法王のために働いていたこともある。ニューヨークに移住して、宗教評論家になった。イエズス会士。この本を書くまでに、18回の悪魔祓いに参加している(主にアシスタントとして)。ただし、本人が参加したケースは取り上げられていない。
そうだな……悪魔祓いについて書いてあるこの本を読んでみるといい……、と ても的確な説明が書いてあって、著者は、マラケイ・マーティンという、ジェ ズイット派の牧師だ。[1]
と勧めるのはウィリアム・バロウズ。勧められたのはアレン・ギンズバー グ。(しかし「ジェズイット派の牧師」って一体……?)。バロウズはギンズ バーグに読んで聞かせてやる。
B ……ここで、マーティンがまた邪悪な霊について語っているから読んでみよう「(悪霊は)果てしなく増え続け、魂の殺害は続き、魂の墓の列が延々とのびていく」。言い換えればウィルスだ……。
G ……墓の列……、良いフレーズだね。
B ウィルスだ。自分の姿を増殖させる。
G うーん……、ウィルスって、いったい何だ? [2]
ま、いかにもバロウズらしく、いかにもギンズバーグらしい会話である。
この会話の註として、ギンズバーグ(当の本をバロウズから借りて読んだ のだろう)が「マラケイ・マーティン」に付している説明、これが謎めいてい た。
マラケイ・マーティン著 『Hostage To Devil』「悪魔の捕虜」副題[五 人の生存するアメリカ人達の体験したエンティティーと悪魔祓い]Perennial Library, Harper and Row出版。ビル(バロウズ)は、この本で注釈をいくつ か書いている。担当した項目は、「トンネルの出口の光」「悪魔の世界に偶然 はない」。バロウズは、また、悪魔祓いに関する記述のうち、彼は「これまで 想像もしなかったような残忍なやり方でムチ打たれた」という箇所にアンダー ラインを引いている。他の注釈に、「では、父よ(神様)、何を期待されてい るのですか? 金の時計でも?」というのもある。[3]
へー、そんな仕事もやってたのと思って『悪魔の人質』をあちこちひっく り返して調べてみた。バロウズの名前なんかどこにもない。項目を担当できる ような「注釈」もない。バロウズがこの本の誕生に関与したという形跡の影も ない。版が違うからかな(Reader's Digest Press版は抄本なのかもしれない)、 とちょっとだけ悩んだ。
冷静に読み直すと、「この本にいくつか書き込みをしている」ってことで しょうね。そしてアンダーラインも引いた、と。「これまで想像もしなかった ような残忍なやり方でムチ打たれた」というのは、
マリアンヌの胴や股や脚や顔に、まるで見えない鞭でこっぴどくたたかれたか のように、大きなみみずばれが現われる(87ページ)。
という箇所のことか。
悪魔憑き、悪魔祓いの5つのケースが載っている。
悪霊の名前を書いたのは、
悪魔祓い師の最初の任務は、その偽装を見破り、悪魔に取り憑かれた人とは別 個なものとして悪霊を表面に引きずり出し、その名を明らかにすることである。 というのも、悪霊には名前があり、その名は、一般に(例外もあるが)悪霊が 犠牲者を手玉にとるやり方に関係があるとされるからである(24ページ)。
名前を知られると悪魔も困るらしい。
キリスト教会非公認の悪魔祓いには効力がない。
……悪魔祓い師がその地位に就いた場合には、公式に教会の承認を得なければ ならない。というのは、悪魔祓いはすべて、ローマ・カトリックであれ、ギリ シア正教であれ、プロテスタント諸派であれ、ともかくイエス・キリストの教 会の実体をなしている教会幹部からのみ授けられるからである。時には、管区 司祭が司教に無断で悪魔祓いを引き受けることもあるが、そうした場合、私の 知るかぎりでは、すべて失敗に終っている(18ページ)。
キリスト教会であれば宗派を問わないということなので、悪霊の世界では 教義の対立や分裂が起こらなかったと思しい。
悪魔祓い師の耳は口汚い言葉の臭いをかぐ。彼の目は腹立たしい音や卑猥な叫 びを聞く。彼の鼻はばかでかい耳ざわりな音を味わう。感覚器官が正常な機能 を失って狂うのである。機能を正常に制御しようとして、悪魔祓い師だけでな く、その場にいるものすべての神経や筋が棒のようにこわばってしまう(25ペー ジ)。
LSDのバッド・トリップみたい。
注: