本を買ってくると、まず、帯または腰巻をむしり取る。文庫にありがちな「今月の新刊」みたいに詰まんないものは捨てる。捨てたくないものは折り返しの部分を切り落とし、栞代わりにページの間に挟んでおく(植草甚一方式)。この植草甚一方式を採用する以前は、帯または腰巻だけを本とは別に保存していた。そのまま本に挟むと、不格好に膨らんでしまうから。
そうやって別に取っておいた帯または腰巻が、荷物の整理により大量に発見された。ってわけで、「これは一体、何の本の帯または腰巻でしょう?」という安直な企画を実施することにしました。
●その1
1980年度ピュリツァー賞受賞
21世紀を生きる知の結晶
全米で長期ベストセラー
ソフト・サイエンスの『ユリシーズ』だ。──ヴィレッジ・ヴォイス [1]
●その2
つねに最前線に立つ過激な男の物語
事件記者を皮切りに作家となり、第二次世界大戦では歩兵を志願、地獄の最前線を戦いぬき、戦後映画監督としてアナーキーな問題作を次々に発表、ゴダールやトリュフォー、ヴェンダースなどに大きなインパクトを与えたシネアストが、果てしなく過激な半生を縦横に語る。[2]
●その3
な、なんだ、これは!
脱線、脱線、また脱線。逸脱と妄想とスピードでアメリカの虚飾と傲慢をぶちこわすサイケデリック・ジャーニー。 [3]
●その4
ヘンな科学者
第一級の業績・第一級の奇人
極度の恥ずかしがり屋で、ただ一人の下男と二、三の言葉を交わす以外、話をすることすらほとんどなく、最期には独りで死ぬと言い張った。女性を極端に恐れ、屋敷内でたまたま彼と出会った女の使用人はただちに解雇された。これが本書の主人公である大科学者の人物像である。 [4]
●その5
音楽と訣別するために、もしくは真に出会うために開かれた黙示録──
あの寒い日の訃報から十年──純粋精神への苛烈な希いを抱いて生死の急勾配を降りていった著者の内部意識の景状を証すエッセイ。その鎮めえぬ生の暗い輝きを苦悶する魂たちに伝達する。 [5]
●その6
史上、最も劇しく病んだ男の破天荒な魂の記録。
言葉・エロス・狂気・権力……20世紀思想の心臓部を今なお呪縛し続ける超問題作、ニーチェに呼応し、フロイトを驚倒せしめ、ラカン、カネッティ、ドゥルーズ=ガタリらの思考を励起してやまぬ、この負号付きの弁神論にして壮大な宇宙論、神聖喜劇にして高邁な自己省察の書が、周到な訳文で甦った。 [6]
●その7
ボルヘス的迷宮への誘い
古くからの宗教的救済と現代文明への渇望と混沌が渦巻くチベット社会
──そのチベット民族の歴史文化、民族の運命をまるごと掴むべく、
循環あるいはねじれた小説時間の手法を駆使して描く
新しいチベット文学の全貌を伝える待望の短篇集。 [7]
●その8
言語の夢想、夢想の言語。
理想の言語
渾名・模倣的書記法・
音声学・
象形文字・
言語の起源・
普遍言語・
人工言語・詩をめぐる
知の遍歴 [8]
●その9
買いなさい!
これはおもしろい
これはおもしろい
これはおもしろい
これはおもしろい
これはおもしろい [9]
●その10
炎はガラスのスポンジである。
5メートルの蝶たちは鏡のように割れる。
唐突に発行する詩句の衝撃。
詩語は外皮を剥がれて
固有のエレメレトに戻され、
意味は振動状態に直立する [10]
●その11
暴行!拷問!強姦!絶望!
占領!反乱!奪回!鎮圧!
スイ星のごとくあらわれた新鋭作家が、戦争の悲惨をえぐった暴力的エロティ
スムの傑作! [11]
●その12
幻想の宇宙年代記
天空はすぐにも異様な様相を帯びてきた。背後にはルビーが、前方には紫水晶
が群れていた。ルビーの星の群れを囲むようにトパーズの星が散乱し、紫水晶
の星の集落の周りにはサファイアの領域が広がっていた。 [12]
注:
ダグラス・R・ホフスタッター『ゲーデル、
エッシャー、バッハ』柳瀬尚紀他訳、白揚社、1985年。
著者名や書名がど
こにも載ってないし、引用されてる書評も曖昧なものばかりなので、連想ゲー
ムのヒントとしては上出来の帯または腰巻。ただし、デザインはひどい(色も
真っピンク)。
サミュエル・フラー『映画は戦場だ!』吉
村和明+北村陽子訳、筑摩書房、1990年。
紙質が良い。折り返しに答が書
いてある。
ハンター・S・トンプソン『ラスベガスをやっ
つけろ!』室矢憲治訳、筑摩書房、1989年。
近年映画化されたそうである。
日本公開に合わせて、新訳も刊行された(『ラスベガスびくびくゲロゲロ紀行』
山形浩生訳、ロッキング・オン社、1999年)。
ピエール・レピーヌ+ジャック・ニコル『キャベンディシュの生涯』小出昭一郎・訳編、東京図書、1978年。
キャベンディシュを巡っては、こんな逸話もある。
私はカヴェンデッシュという男について色々な人々に話をきかせたが、それを聞いてその男は素晴らしいと言った人はセリーヌ一人だ。このイギリスの偉大な科学者の全容は、その生存中は明らかでなく、推察されるにとどまっていたが、死後彼の手帳が発見されて、その中に彼の最も輝かしい理論が隠されていたという。彼は家僕、特に女中に姿を見られるのをいやがったという。食事の注文を書いた紙を廊下のテーブルの上に置いておくと、下僕が姿を見せないようにして食事を運ぶ。もし姿を見せたらクビである。当時一億五千万パウンドもの、当時のイギリス最高額の遺産をうけついだカヴェンディシュだからこそ、こんな気まぐれが出来たのである。私がこの話を終えないうちから、セリーヌは口をはさんで叫んだ。「立派な男だ!」この話がよっぽど気に入ったとみえて、帰ってきた夫人に繰り返して聞かせた。そして私がデンマークに滞在している間じゅう、ずっとその話を繰り返した。彼のような幸福を自分が味わえないのは、ただ財産が自分にないからだと残念がりながら。君はアメリカから少なくとも一つよい考えを運んでくれたよ、とも言った。
ミルトン・ヒンダス『敗残の巨人』(上村くにこ訳、松籟社、1982年)、114ページ。
間章『非時と廃虚そして鏡』、深夜叢書社、
1988年。
レコードのライナーノーツ集である。帯もすごいが、中身はもっ
とすごい。
ダーニエール・パウル・シュレーバー『シュ
レーバー回想録 ある神経病患者の手記』尾川浩+金関猛訳、平凡社、1991年。
平凡社らしくもない舞い上がった煽り文句に、編集者(二宮隆洋)の意気
込みを感じる。
『発見と冒険の中国文学 8 風馬の耀き──
チベットの新しい文学』ザシダワ+色波・著、牧田英二訳、JICC出版局、
1991年。
「チベットのボルヘス」という反則気味の組み合わせが衝撃的だっ
た。フアン・ルルフォの影響も受けているというから、ますます焦る。
ジェラール・ジュネット『ミモロジック──
言語的模倣論またはクラテュロスのもとへの旅』花輪光・監訳、書肆風の薔
薇=発行、白馬書房=発売、1991年。
羅列されたジャンルに興味ある人間
は必読、そうでない人間には無用の長物。ってことで、大変わかりやすい正直
な帯。
R・A・ラファティ『九百人のお祖母さん』
浅倉久志+伊藤典夫・訳、ハヤカワ文庫、1988年。
文庫では珍しくない脱
力系の手抜き。本を引っ繰り返すと一応まともな推薦文も読めるのは良心的。
「ラファティは、もっとも独創的なSF作家の一人だ。彼には通常の物語の 制約を勝手気ままに打ち破り、真剣な事柄を茶化し、グロテスクな題材をある 種の土俗的リリシズムに一変させる恐るべき想像力がある。──テリー・カー 」
『トリスタン・ツァラの仕事 II 詩篇』
大平具彦+塚原史・訳、思潮社、1988年。
誤植入りの帯。「エレメレト」
は「エレメント」でしょう。詩の出版社がこんなことでいいのかよと憤りつつ、
不思議に語感のいい「エレメレト」に「さすが詩の出版社」と逆に納得。
ピエール・ギュイヨタ『五十万人の兵士の
墓──反乱の雅歌篇』榊原晃三訳、二見書房、1969年。
強烈 (笑)。こん
な煽りで本を売ってしまう二見書房に敬服。ただ、これでもまだ中身に比べる
と甘い。
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』
浜口稔訳、国書刊行会、1990年。
「おお、あれが遂に翻訳されたか」タイ
プの本で、表4に宣伝文句が載ってることもあり、帯は慎しい。イヴ・タンギー
を使った表紙と無難に合って、控え目に購買意欲を増進させる。